北極のペンギン

来た観た聴いた

きらめく季節

寺山修司の五月の詩が好きで、ずっと五月生まれに憧れている。

美しい季節がやってきた。私は風邪をひいて家に籠っている。

 

冬の間に川合玉堂に興味を持ち、ついに先日青梅の玉堂美術館へ行ってきた。

年代順に展示された作品はどれも素晴らしくて、その場所の空気の温度や湿り気、吹き抜ける風が感じられるようだった。瑞々しい風景画、スケッチに宿る緻密で誠実な観察眼と美意識、動物や人物のユーモラスな表情、どれも宿した水の存在や時の流れを感じるところが好きだ。

とても素晴らしかったが、小さな美術館なので、もっと見たいという渇望がかえって強くなってしまった。調べたところ、翌日まで東京国立近代美術館で「行く春」が展示されているという。

矢も楯もたまらず、そのまま翌日の予約を取って「重要文化財の秘密」展へ。

 

こちらの展覧会がまた面白かった。

目当ての川合玉堂の「行く春」ははらはらと舞い散る華やかな桜の花びらの透明感や繊細さ、流れる水の存在感、咲き誇る桜への敬意とその中にある人々の生活、行く春を愛おしむ眼差しが感じられて、その世界観に浸れる時間を幸福だと思った。観に行ってよかった。

隣にあった下村観山の「弱法師」はドラマティックな構図で、端から観ていくと最後に夕日が浮かび上がり、心に強い印象を残す。梅の中にたたずむ弱法師の情景と、弱法師が思い浮かべた沈む夕日の情景がリンクして、一本の映画のように感じられる屏風だった。

このほか、松岡映丘「室君」の表情豊かで多面的な情景の描き方が興味深かったし、横山大観の「生々流転」を一気に見られるのも貴重だった。教科書で見たことがある「鮭」や「湖畔」、「麗子微笑」などが一堂に会していることも興奮した。「麗子微笑」は祖母が好きだった絵だ。私は印刷物で観たときは全然良さが分からなくて、なんだか不思議なバランスの絵だと思っていたけれど、実際に実物を見たらその柔らかく穏やかな光にとても惹きつけられた。あらゆる絵画に言えることだと思うけれど、やはり生で観ないと本当のよさは分からないものだ。

この展示の面白いところは、ジャンルごとに分けたエリアで、発表年順に並べつつ、重要文化財に指定された年を明示しているところ。すぐさま認められるとは限らないし、その時代の価値観が認定に反映されていて面白い。「その時代の価値観」というのは必ずしも一様ではなく、バランスをとるような動きもあるなと思う。

できれば会期中にもう一度観に行きたい。

 

「重要文化財の秘密」 問題作が傑作になるまで 公式ウェブサイト

なんだかやたら凝ったウェブサイトだが、これも今の価値観(の、ひとつ)ってことなのかな。